THE ORAL CIGARETTES「自動販売機の男」が11年ぶりに歌われるまで

Music

「自動販売機の男」という曲

THE ORAL CIGARETTESというバンドの名を知っている方の中でも、「自動販売機の男」という楽曲を知っている方はどのくらいいるだろうか。

私も4~5年オーラルから離れていたので現在の界隈のことは詳しくはわからないのだが、「自動販売機の男」は演奏されることのない曲のはずだった。

この曲が演奏される時は、何かが変わる時。

THE ORAL CIGARETTESというバンド、山中拓也というボーカリストにとってとても意味のある日になる。

そんな思いを抱いていたオーラルファン、BKW!!(番狂わせ)も少なくなかっただろう。

2026年10月12日。ぴあアリーナMMで行われたファンクラブ限定ライブ「BKW!! Premium Party 〜THINK OUT LOUD〜」にてこの楽曲が歌われた。

そのニュースを友人から聞いた時、居てもたっても居られなくなり、大好きなラルクのレポを一旦後回しに今この文章を書いている。

この曲に何があったのだろうと思うファンもいるかもしれない。

「自動販売機の男」

これにはTHE ORAL CIGARETTESから切っても切り離せない深いエピソードが絡んでいる。

山中拓也が長年歌うことのできなかったこの曲には、2015年のライブで起きた出来事と、それ以来彼が抱えてきた思いが深く関わっているのだ。

山中拓也と「自動販売機の男」

そのエピソードは遡ること2015年7月14日。Zepp Diver City(TOKYO)でのワンマンライブ「~唇ワンマンJAPAN TOUR 2015~おまたせBKW!!9ヶ所行脚でエリア拡大、改めまして『ジ』オーラルシガレッツです!の巻~」で起きた。

参考:音楽ナタリー

彼の著書、「他がままに生かされて」によると、ボーカル山中拓也は当時、喉の不調を抱え、ステロイドを服用しながらステージに立っていた。そしてこれはファンに明かされていなかった。

その日は朝から喉の不調が目立ち、本番2曲目の時点で声が掠れていたという。

そして6曲目、「自動販売機の男」。

彼はこの曲の途中で声が出なくなり、その場に蹲った。彼が楽屋で休んでいる間に他のメンバー3人のトークで場を繋ぎ、演目は大きく変更して何とかライブをやりきる。

著書「他がままに生かされて」で彼はこう振り返る。

歌えない悔しさと恥ずかしさで僕はステージ上にうずくまることしかできなかった。

出典:山中拓也『他がままに生かされて』131ページ

その後、同年8月の「SPACE SHOWER SWEET LOVE SHOWER2015」のステージでVo.山中拓也のポリープと摘出手術に伴うTHE ORAL CIGARETTESの活動休止が発表された。

参考:rockin’on.com

THE ORAL CIGARETTESのアルバム「UNOFFICIAL」の最後に収録されている楽曲「LOVE」の歌詞

ひどく落ちた7月の夜も

とはこの日のことを歌っている。

「自動販売機の男」が歌われなかった11年間

活動再開とキラーチューン「狂乱 Hey Kids!!」

2015年8月のライブを機にTHE ORAL CIGARETTESは活動を休止した。

そして同年11月11日。THE ORAL CIGARETTES最大のヒット曲「狂乱 Hey Kids!!」がリリースされ、12月からライブ活動を再開。オーラルは華々しく返り咲くのだった。翌年1月発表のアルバム「FIXION」もオリコン6位のヒット。ここからオーラルは飛躍していった。

2016年2月から、「唇ツーマンTOUR 2016 ~復活・激突・BKW!!の巻~」を開催。対バンアーティストはBLUE ENCOUNT、SUPER BEAVER、a flood of circle、androp、SiM、WHITE ASH、04 Limited Sazabys、HEY−SMITH、UNISON SQUARE GARDEN、THE BAWDIES(豪華すぎたので全アーティストを記載)。

参考:THE ORAL CIGARETTES公式ホームページ

彼らと共に各地で復活の狼煙を上げるのだった。

この活動再開からオーラルは邦ロックシーンを駆け上がっていく。しかし、何年経とうともセットリストに「自動販売機の男」が入る日は無かった。

著書「他がままに生かされて」で明かされた思い

2021年3月2日。彼の30歳の誕生日に初のエッセイ本「他がままに生かされて」が出版される。ここで漸く、「自動販売機の男」という楽曲に触れられる。

僕はあの日から『自動販売機の男』を一度も歌っていない。今でもイントロを聴くだけで鳥肌が立ち、喉が渇いて、呼吸が浅くなる。

時間はかかってしまったけど、やっとこの事実を言葉にすることができた。

ほんの小さな一歩だが、いつかあの歌をみんなの前で披露するための確実な一歩だと思いたい。

出典:山中拓也『他がままに生かされて』132ページ

著書で明かされる前も、「自動販売機の男」という曲はあの日以降一度もライブのセトリに入ることはなく、どことなく触れてはいけない雰囲気があったと思う。

「他がままに生かされて」でようやく歌うことができないという事実を正式に明かされたのだ。

いちファンとしてはアルバム「The BKW Show!!」の楽曲達は大好きであり、「自動販売機の男」も特に好きな楽曲だった。

しかし、山中拓也がもう一度歌おうというタイミングが来るまでは待とうという思いだった。

THE ORAL CIGARETTESを追いかけてきたファンなら、彼が数々の困難を乗り越えてきたことを知っているだろう。それでも必死に自分の道を模索して歩んで来た強い人なのだ。彼を信じて待ちたかった。

11年間の封印が解かれる

2026年10月12日。「自動販売機の男」がライブで最後に演奏されてから実に11年が経過していた。

私は現地で聴くことはできなかったので、現地で見た友人達の情報によると、

「俺らオーラルはカッコいいバンドってだけじゃない。ダサいとこみんなに散々見せてきたしな。トラウマだってある。1曲だけどうしてもやりたい曲があんねん。みんなの力を貸してほしい。トラウマを乗り越えさせてくれ。」

山中拓也はこんなMCの後、「自動販売機の男」を披露した。彼は所々苦しそうな表情を浮かべ、声の震えはあったものの見事歌いきり、「俺歌えたぞー!!」と清々しく、満足そうな表情をしていたとの事だ。

「自動販売機の男」が遂にステージで演奏された。11年間の悲しい封印が、解かれたのだ。

終演後のTwitter、Xは「自動販売機の男」のワードが入ったツイートで溢れた。多くのファンが驚きと喜びの言葉を口にし、困難に立ち向かい、乗り越えたボーカリストに賞賛の声を寄せていた。

THE ORAL CIGARETTESと再び歩き出す

THE ORAL CIGARETTESは今後どんな世界を見せてくれるのだろうか。

私はアルバム「SUCK MY WORLD」発売後くらいから、それまで散々吸い尽くして来たオーラルの世界から離れてしまっていた。私が見ていない間も彼らは楽曲のリリースを続け、活動休止も乗り越えた。

そしてトラウマも。

「自動販売機の男」を聴きながらこの記事を執筆しつつ、「他がままに生かされて」の130ページを眺める。

この本を読んでから5年近く経つのかとページをパラパラとめくる。

ページをめくる度に高校生の自分の感情が再び脈を打ち始めるのを感じた。

その本にはコロナ禍で希望にしていたロックスターの生き様が綴られていた。孤独感、諦観、絶望から這い上がろうとする意志。様々な感情を。

実はつい先日、THE ORAL CIGARETTESの月額ファンクラブ会員の会費を数年間支払い続けていたことが発覚した。高校生の私は初年度は年会員として入会し、お金への不安から月額会員に切り替えていたらしい。退会すればお金が掛からないのに、わざわざ月額会員に切り替えてギリギリまで会員であろうとしたのだ。

時間のせいで忘れてしまっていたが、THE ORAL CIGARETTESはかなり大きな存在だった。せっかくなのでまたライブに行こうと思う。1つ壁を乗り越えた山中拓也が率いるオーラルはどんな音を奏でるのか。

また1つ生きていく楽しみが増えた。

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